http://kuroyagikankou.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E6%82%AA%E9%AD%94%E3%81%AE%E5%A5%B3悪魔の女
彼女に私の心は捕らわれている。悪魔的な微笑に私は虜にされ、魅惑的なその声音に心は惑わされてしまったのだ。避けようが無かった。どうすれば良かったというのだろうか?
私に与えられていた選択肢は一体幾つあったのだろう? 確かにその選択をなしたのは私でなければならないはずなのだ。だが、彼女に好意を抱いた時、私は本当に自由でいたというのだろうか? 今となっては分からない。
胸中にあるのは、彼女の姿、笑顔、声、それ以外に入る余地はもうないのだ。捕らわれてしまっている、ここは牢獄だ。恋という名の牢獄。決して逃れることの出来ない、アルカトラズ。
私は怖い。どうすれば良いというのだろうか。この想いをどこに向かって吐き出せば良いというのだろうか? 悩むことは何も無いのだ。
彼女に、この心中を明らかにすれば良い。たったそれだけの、簡単なこと。それが私には出来ない。名状しがたい恐怖に、私は支配されている。一人の女性を好きになるということが、こうまでに辛いものだったのか。
私は、どうすれば良いのだ? 誰か、この檻から私を解き放ってくれ。苦しくて、涙が出そうだ。
この腕の中に、彼女の細やかな肢体をかき抱きたい。力いっぱいに、抱きしめたい。
そのための一歩を踏み出す勇気が無いのだ。彼女の全てが欲しい、この私の想いを彼女も知っているだろう。押さえ切れない想いは周囲に気づかれている。
彼女のことが好きだと声高に叫ぶことは出来ても、彼女にこの想いを伝える勇気がもてない。恐ろしい、私は一体どうなってしまうのだろうか。何も考えることが出来ない、換気のために開けた窓から入り込む冬の風が、私の体を冷やす。しかし心は冷えることが無い。彼女への想いが燃えている。
初めて会ったのは、バイト先での居酒屋だった。彼女は新人で、私はベテランとして教育することになったのだ。その時の、彼女の姿に私は望んでこの檻の中に身を投じたのだ。逃れたいなどと思うのは、筋違いだろう。
だからなのだろうか、同じバイト仲間というこの関係を壊したくないのだろうか。しかし今の状況を破壊しない限りは、新たなる始まりも無い。最悪でも、何かが始まるというのならばそうするしかないのだろう。
そのための一歩が、必要なのだ。それを、私は踏みとどまってしまっている。彼女の笑顔を、私に向けたい。紛うことなき素直な欲求である。
なのに、行動することがとてつもなく恐ろしい。あの笑顔が、見れなくなってしまうのが怖いのだ。彼女に会えなくなってしまうのが、恐ろしい。
私は、牢獄に捕らわれている。
PR